2015年1月16日金曜日

すみれの花とウィーン

マティス
ウィーン旅行を終えた親友から、カフェ・ゲルストナーの砂糖菓子を頂いた。すみれの花から作られた汁を甘く固めた、ウィーン子の好きなスゥイ―トである。ウィーンの薫りと味がする。

「すみれの花」で思い出したのがモーツァルトの歌曲「すみれ」である。

アンリ・ゲオンは「モーツァルトとの散歩」のなかで、歌曲「すみれ」を特に魅力的な歌として取り上げ、この曲の劇的な調子と哀調を帯びた素朴さは、のちのシューマンやシューベルトの追憶の的となった、と述べている。

モーツァルトの歌曲は生涯30曲くらいしいかない。
其の内、私の好きな曲は「春への憧れ」「春」「クロ―エに」「ラウラに寄せる夕べの想い」そして「すみれ」といったところだ。

モーツァルト歌曲集

エディト・マティス(ソプラノ)
カール・エンゲル(ピアノ)

演題(抜粋)
  • 喜びに寄せて         ・春への憧れ
  • すみれ             ・ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時
  • 内緒ごと            ・私の慰めであって下さい
  • 私は私の道を         ・春
  • ラウラに寄せる夕べの想い   ・クローエに

歌曲「すみれ」は、シューベルトの「野ばら」と好一対の名歌曲であり、原詩はゲーテである。

<牧場の片蔭に寂しく咲きし花すみれ、草刈る乙女のこなたに近寄るを見て、あわれ密かに思わく。やさしの君にめでられ、その手に摘まれて胸に触れたや。
ただつかの間に、あああわれ、その花乙女にふみにじられたり。
すみれは死すも、いえるは,げに我が望みよ、恋しき君のために死すは、げに我が望み。
かわいそうなすみれ、いたましやそのすみれ花 (神保環一郎訳)


すみれの砂糖菓子(ゲルストナー)

マティスは「すみれ」を清潔で透明な音声で、真面目に唄っている。
しかし、名盤シュヴァルッコップの唄うモーツァルト歌曲集の「すみれ」と比べると感情とノーブルな音声が欠けているようだ。

名テノール歌手のペーター・シュライアーが唄う<すみれ~春への憧れ>1990年版では、花乙女にふみねじられるすみれの心鼓動が聞こえてくる。名演だ。

蛇足だが、「すみれ」の言葉で思うのは、夏目漱石の有名な俳句である。

<すみれほど 小さき人に生れたし>

「他人が作る規範の名誉にとらわれず、自分流に生きること」が「小さき人」の表現の意図ではなかったかと私は思っている。漱石の「草枕」には、達観した人生観があり、大好きだ。小さき人の私は、小さいが故の幸せを生きたいと思うのである。



0 件のコメント:

コメントを投稿