2015年1月17日土曜日
小澤征爾音楽塾・モーツァルト:歌劇「フイガロの結婚]
よこすか芸術劇場 2014.3.16
音楽総監督・指揮 小澤征爾
指揮・チェンバロ テッド・テイラー
管弦楽:小澤征爾音楽塾オーケストラ
合唱:小澤征爾音楽塾合唱団
アルマヴィーヴァ伯爵:クレッグ・ヴァーム
伯爵夫人:シャーン・デイヴィース
スザンナ:デブン・ガスリー
フィガロ:ウェイン・テイグス
ケルビーノ:リディア・トイシャー
マルチェリーナ:牧野真由美
2000年に小澤征爾音楽塾を結成ししてから10回のオペラ公演をした.小澤征爾の第1回目の公演が「フィガロの結婚」であったという。今回はその所縁の「フィガロ」である。小澤さんの健康上、テッド・テイラーと分担して指揮をした。<オペラ・ドラマコ形式と小澤さんは名付けている。>
聴衆の第一の関心事は、小澤征爾の指揮であった。大拍手に迎えられた小澤さんは、足取りは不確かにも見えたが、指揮台では見事であった。フイガロの序曲は、清流を昇る若鮎の様に踊り跳ねた。彼の手首の柔らかさと繊細な指の動きに、オーケストラが同化し、モーツァルトの心地よい笑顔が見えた。
第1幕で、登場人物の歌と演技力に驚いた。なかでもケルビーノ役のリデイア・トイシャー(ソプラノ)の美声に圧倒された。今年のグラインドボーン音楽祭にこの役で出演するという。スザンナ役も素晴らしい。感情の変化を見事に表現してゆく。
第2幕で登場する伯爵夫人シヤーン・デイヴィスは、今後最も期待できるリリック・ソプラノ歌手だ。
圧倒的な歌唱力を持っていて、若い人だが、大成している。
小澤さんは、第2幕の途中で一旦交代したが、最終第4幕では渾身の指揮を見せた。私は近年涙腺が緩くなり困っているが、小沢さんが最初に元気な姿で会場に現れた時、最終に満場の聴衆からブラボーされ、幼子の様にはしゃいでオーケストラの人々と歓びあっている姿に、涙腺の病が再発してしまった。
会場のよこすか芸術劇場は、日本唯一のオペラ劇場設計だが、ウィーン国立オペラ劇場に似た客席構造で、音響の豊かさに満足した。
「フィガロの結婚」は、モーツァルトの特性である遊戯性が発揮された傑作だ。オペラのフィナーレは伯爵邸の夜の庭で、女達の衣装交換で表裏が一変して、男達は驚愕し、すべてがHAPPYで終わる。モーツァルトが時代を先駆けて貴族社会を風刺したのが、意図的であったかは私には分からない。
数々のアリアと合唱の素晴らしいのは、モーツァルトの音楽が生み出す自然の帰結なのだと思う。
しかし乍ら、私は、この日、何か分からないけれども、モーツァルトを超え、音楽の偉大さを超えたある力が
存在するのではないかと、感じた。
<ああ、これで皆なは満足することでしょう。苦しみと悩み、出来心と馬鹿げた行いで過ぎたこの一日、こうして満足な喜びで終わったのは、全て愛の力です。楽しい行進曲にあわせて、みんなで
祝いに行こう!>
モーツァルトは民衆文化の先駆者でもあったのかも知れないが、私が知りたいある力とは何かという疑問には答えて呉れない。私は、ただこの未知なるものを今後も探し求めるだろう。
余談で恐縮だが、私はカルロス・クライバーの父であるエーリッヒ・クライバー指揮の1955年録音LP初期盤を持っている。美しい録音であり、特にフィガロ役のシエビ(バス)が素晴らしい。この盤に勝る「フィガロの結婚」はない。私の最上の遺産でもある。
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