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作曲:オネゲル
脚本:クローデル
指揮:オーマンディ
演奏:フィラデルフィア管弦楽団
テムプル大学合唱団
配役:ジャンヌダルク;ヴェラ・ゾリーナ
僧ドミニック;レイモンド・ジェローム
オネゲルは、この交響曲を「劇的オラトリオ」と呼び「オペラ」の認識は無かった。、その認識の明確さが、この音楽を逆に佳作にした。ジャンヌダルクはドミニクと会話するが、唄わない。そして音楽の進行役は、主にコーラスである。
この盤は1966年に発売されたものだが、私は1986年頃,中古レコード屋から購入したと記憶している。確か小澤征爾が松本でこの曲を指揮演奏したことを知り、更に小澤さんが、メシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」を東京カテドラルで指揮し、大成功を収めたことに刺激され、この分野に興味をもった時だった。1983年小澤さんのパリのオペラ座で、ホセ・ファンダムとEAD・PIERREを主演とする「アッシジの聖フランチェスカ」を指揮したフランス盤CDを持っていて聴いていたので、期待してこの中古LP盤(二枚盤)を探し求めたものだった。
オーマンディ指揮は、地道な彼の音楽を余すことなく伝え、この盤を世紀の名盤とした。
フランスとイギリスの100年戦争中の史実を題材としたこの曲は、[神と人との対話]というキリスト教的主題であり、オネゲルの作品の真髄だ.史実を振り返ってみたい。
<1428年10月、フランスオルレアンの町は英軍に包囲され、オルレアン公シャルルはすでに英軍の捕虜となった。オルレアンが陥落すれば、フランス全土が英国人の蹂躙に委ねられることになることは明らかであった。「オルレアンを救え!」は、フランスの解放を意味する合言葉として、フランス全土に湧き起こった。人々は神に念じ、ひたすら奇蹟を待った。
奇蹟の主は、寒村ドムレミイの貧しい羊飼いの娘、文字さえも知らないジャンヌだった。やさしい性格と篤い信仰の持ち主だったジャンヌは13歳の頃から神のお告げを聞くようになった。二度にわたる厳しい審問を経て、ジャヌは立ちあがった.神剣を右手に軍旗を左手に甲冑をつけ馬にまたがり先頭にたって怒涛のごとき勢いでオルレアンの囲みを解き、更に各地に転戦しイギリス軍は各地で敗退した。
しかし1430年5月、不幸にも英軍に味方した手勢に捕えられ、イギリスに一万ルーブルで売られたのである。
天使ジャンヌ・ダルクは異端裁判にかけられ、公正な尋問のかわりに罠にかけられた。
「火刑」牢獄で待つジャンヌへの断罪であった。文字を読めぬジャンヌは十字架の署名をさせられた。
火刑台へ曳かれる途中、なぜ?なぜ?とジャンヌは叫んだという。
ジャヌの悲劇は再びフランス国民の胸に火を灯した。「聖女の死を無にするな」新しいフランス解放の軍勢がフランス全土からイギリス軍を追い返すのにそう長い時間を要しなかった。100年戦争は終結したのである。>
オネゲルは第ニ次世界大戦の最中に、果てしない殺戮を繰り返す人間に対する怒り、「神」に救いを求める心からの祈りを、このオラトリオに結実させたのだ。
(参照:オネゲル著「私は作曲家である」吉田秀和訳)
この史実に基ずくクローデルの脚本により、曲は火刑台に繋がれたジャヌ・ダルクに
フランス民衆の苦痛のうめきの合唱よりはじまる。オラトリオは劇的に展開される。
僧ドミニック、ジャンヌ、そして合唱団が実によい。曲は次のように展開される。
1.プロローグ
2.天よりの声
3.一巻の書
4.地よりの声
5.野獣の手にゆだてられたジャンヌ
6.火刑台のジャンヌ
7.王たちのトランプ遊び
8.聖カトリーヌとマルグリット
9.王ランスへ向かう
10.ジャンヌの剣
11.5月の歌
12.炎に包まれたジャンヌ・ダルク
さて、神のお告げにより生きながらの火刑により昇天するジャンヌ・ダルグの言葉と霊は聴者の感動をよび、心を揺さぶる。
特に最後の合唱の美しさは、心を素直にさせる。
私は、十字架で処刑される「マタイ受難曲」のイエスと比較し、連想する。最後の合唱の美しさと感動は、同じだ。
ジャンヌダルクは言う。 オネゲル
<いま、わたしは、勝利に立ちあがる歓びを感じます。
いま、わたしは、勝利に立ち上がる愛を感じます。
いま、わたしは、勝利に立ち上がる神を感じます。(火刑台のジャンヌ・ダルクは生き絶える)
聖職者たちは唄う。
<かくも偉大なりし愛はかって無かった。その命を、惜しみなく愛する者らのために
棒げたほどに偉大なりし愛。>
マタイ受難曲では、聖職者は罵り、群衆が
賛美の最終合唱を唄う。〈参照 頁)
合唱の主役は異なっているのだ。
共通点は、人間に対する愛であろうと思う。愛聴に値する盤だ。蛇足だが冒頭のジャケットの写真が美しい。私の好きなイングリット・バークマンに似ている。
追伸
遠山一行さんの著作集を読んでいたら、このレコードについての記述があった。私は1987.8.16に読了と記入しているが、まったく記憶にないものだ。
<この曲は、オーマンディ指揮の全曲レコードがあるが、現在では廃盤のようである。オーマンディの演奏は大変よいが残念なのはジャンヌ役のヴェラ・ゾリーナのフランス語のなまりがひどいことだ。音楽のリズムには、よく乗っていて不満はないが、やはりフランス人には聴きづらいもののようである。>としている。(「名曲百選・名曲のたのしみ」より)
私には、フランス語の発音などは分からないから、幸せである。

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